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大分地方裁判所 昭和45年(ワ)358号 判決 1972年9月07日

原告 相良勇

被告 大分県信用組合 外一名

主文

1、被告大分県信用組合は原告に対し、金一六九万〇、六七二円およびこれに対する昭和四五年六月二日以降右支払済まで年五分の割合による金員を支払え。

2、被告有限会社徳久産業は原告に対し、金一万六、七八一円およびこれに対する昭和四五年六月二日以降右支払済まで年五分の割合による金員を支払え。

3、訴訟費用は被告らの負担とする。

4、この判決はかりに執行できる。

事実

(原告の求める裁判)

主文同旨。

(被告らの求める裁判)

1、原告の請求を棄却する。

2、訴訟費用は原告の負担とする。

(原告の請求原因)

一、首藤富雄はもと、別府市大字南立石字川原端二〇七二番一三宅地七五坪三二の土地(以下本件一三の土地という)を所有していた。

二、被告信用組合は、昭和四四年四月三〇日、本件土地につき同四三年九月五日設定(債務者有限会社首藤建設)名義の根抵当権にもとづき競売法による競売の申立をした(大分地方裁判所同四四年(ケ)第四三号事件)。

三、原告は右競売事件において、同四四年六月二三日本件一三の土地を最高価一、七四一、〇〇〇円で競買申出し、同月三〇日競落許可決定を受けて右決定確定後の同年七月二一日右代金を完納した。

四、右事件同四四年八月四日の配当期日において、右競売代金より、被告信用組合は一、六九〇、六七二円、被告徳久産業は一六、七八一円の配当を受けた。

五1、本件一三の土地は、後藤マサエ所有の同所二〇七二番八宅地四四坪六八もしくは衛藤和夫所有の同所二〇七三番二宅地五〇坪と重なり合つているか、又は両地上に跨つているのかの何れかである。

2、要するに、本件競落は他人の権利をもつて目的としたものである。

六1、首藤富雄は、同四三年九月五日、被告信用組合との間で、有限会社首藤建設の同被告に対する債務について、本件一三の土地と誤信していた別紙Bの土地(以下本件Bの現地という)について根抵当権を設定したが、本件一三の土地には根抵当権を設定していない。

2、しかしながら、本件Bの土地は、本件一三の土地ではなく、後藤マサエ所有の同所二〇七二番八の土地に該り、本件Bの現地は首藤富雄の所有ではない。

3、そうすると、右の抵当権は他人の物について設定されたもので無効である。

4、本件競売手続は被告信用組合の右の無効な抵当権にもとづく申立により行なわれたものであるから、原告は競落により競落不動産の所有権を取得できない。

七、本件競売手続における債務者、所有者である有限会社首藤建設、および首藤富雄は本件一三の土地を完全に取得して原告に移転することができない。

八、原告は、同四五年五月一四日、有限会社首藤建設および首藤富雄に対し、内容証明郵便によつて本件競売手続における売買契約を解除し、競落代金の返還を請求する旨通知し、この通知はそのころ到達した。

九、右両名は無資力で本件競落代金一、七四一、〇〇〇円を原告に返還することができない。

一〇、よつて、競落人である原告は第一次的請求として民法五六八条、五六一条により、本件競売代金の配当を受けた被告らに対しその配当額(被告信用組合は一、六九〇、六七二円、被告徳久産業は一六、七八一円)およびこれに対する本件訴状送達の翌日である同四五年六月二日以降右完済まで年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

一一、本件一三の土地が現在衛藤和夫の占有している別紙図面Aの土地に該るとしても、首藤富雄と被告信用組合はこの土地に抵当権を設定したわけではないから、本件競売の基礎となつた抵当権は不存在で原告はこの土地の所有権を取得できない。

このため原告は競売代金相当の損害をうけ、このため被告らは法律上の理由なく配当をうけ利益を得た。

一二、よつて、原告は、第二次的請求として民法七〇三条により、被告らに対し、前記配当額相当の不当利得金、およびこれに対する本件訴状送達の翌日である同四五年六月二日以降右完済まで年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

(請求原因に対する被告らの認否)

一、請求原因一ないし四は認める。

二、請求原因五は否認する。

三、請求原因七ないし九は争う。

(被告信用組合の抗弁)

一1、原告は同四四年一二月一六日本件一三の土地を有限会社日進商事に売却し、同社は同月一八日これを黒田和子に売却した。

2、よつて原告は本件一三の土地について利害関係を有していないから、原告の請求は失当である。

(証拠)<省略>

理由

一、請求原因一ないし四のとおり、原告が競売法による競売手続において本件一三の土地を競落し、被告らがこの競売代金より配当を受けたことは当事者間に争がない。

二、原告は本件一三の土地が同所二〇七二番八の土地又は同所二〇七三番二の土地と重なり合つているか跨つていると主張する。しかしながらそのように一の現地の上に二の地番が存在することは本来あるべき筈でないのであつて、現にそのようなことが存する可能性は極めて低いと思われる。

そして、成立に争のない甲一ないし三号証、甲四号証の一、二および甲五号証の一、二、証人首藤富雄、同衛藤和夫、同安藤伸一、および同中津哲郎の証言、ならびに検証および鑑定の結果によれば、(イ)字図上、前同所二〇七二番一二の土地、前同所二〇七二番八、本件一三の土地はこの順で東から西に相隣接し、これらの南側は道路に、北側は同所二〇七三番の二、又は三の土地に接しており、同所二〇七三番の二の土地は西南方を右道路に接し南方を本件一三の土地および前同所二〇七二番の八の土地と接し、その余の部分は同所二〇七三番の三の土地に接していること、(ロ)前同所二〇七二番の一二の土地は中津哲郎の所有に属し同人は同地上に建物を所有しており、この土地は現地では別紙図面Cの部分に該当すること、(ハ)前同所二〇七二番八の土地は後藤マサエの所有に属しこの地上には建物はなく、この土地は現地では別紙図面Bの部分に該当すること、(ニ)本件一三の土地は現地では右同所二〇七二番の八の西側に隣接し衛藤和夫が建物を所有し居住している別紙図面Aの部分およびその北側部分に該当して存在し、他の地番の土地と重なり合つてはいないこと、(ホ)同所二〇七三番の二の土地は現地では本件一三の土地の北側の部分に存していることが認められ、この認定を覆すに足りる証拠はない。

右のとおり本件一三の土地は他の土地と重なり合うことなく存在しているから、この認定に反する原告請求原因五の主張は理由がない。

三、そこで、つぎに請求原因六の主張について判断する。

右甲一ないし三号証ならびに証人首藤富雄および同佐藤{穴作}陸の証言によれば、首藤富雄および被告信用組合は同四三年九月五日本件Bの現地が前同所二〇七二番の一三に該当するものと信じ、右Bの現地に根抵当権を設定する意思で、同所二〇七二番の一三の土地につき同日の金融取引契約上の有限会社首藤建設の債務を被担保債務、元本極度額一五〇万円、利息日歩三銭五厘、損害金日歩五銭とする根抵当権設定の契約書を作成して、その根抵当権設定の登記を経たが、右の首藤富雄および被告信用組合は同所二〇七二番の一三の土地が真実に該当する別紙図面Aの現地およびその北部の土地の部分について根抵当権を設定する意思はなかつたことが認められ、この認定を覆すに足る証拠はない。そして同所二〇七二番の一三の土地は別紙図面Aの現地およびその北側の部分に該当し、本件Bの現地に該当しないことは前記二に認定のとおりであるから、本件一三の土地に根抵当権設定契約がなされたとしてもそれは目的物の錯誤により無効であるというべきである。

そして右甲二号証によれば、被告信用組合は右の無効な抵当権にもとづき本件一三の土地につき競売法による競売の申立をし、その手続で請求原因三、四のとおり原告が本件一三の土地を競落したことが認められるところ、競売の基礎になつた抵当権が無効である以上、原告はその手続で競落許可決定をえてもその競売不動産の所有権を取得できないこととなる。

このような場合競落人は民法五六八条、五六一条により救済を受けることができるわけであるが、債務者である有限会社首藤建設が本件一三の土地の所有権を原告に移転できないことは証人首藤富雄の証言により明らかであり、原告が請求原因八のとおり競売による契約を解除し代金の返還を請求する旨の意思表示をしたことは弁論の全趣旨により成立の認められる甲六号証の一、二により認められ、これら認定を覆すに足りる証拠はないから、本件競売による売買は解除されたこととなる。

ところで、競売法による競売手続において本件のように競売の基礎となる抵当権が不存在であつたため担保責任の問題が生ずる場合、民法五六八条一、二項にいう「債務者」とは、その抵当権の設定者とされている者又はその不動産の所有者ではなく、その抵当権の被担保債権の債務者、本件では有限会社首藤建設を指すものと解すべきである。

抵当権設定名義者又は所有者を「債務者」として右法条による責任を負わせると本来抵当権の負担を負わない者に対し別の形態で抵当権の負担を負わせたと同じことになつて不当であるからである。そこで有限会社首藤建設の資力について判断するに、証人首藤富雄の証言によれば、右会社は右競落のころより現在まで資産はなく約一〇〇〇万円の負債を負い無資力で本件競落代金を原告に返還できないことが認められる。

そうすると本件一三の土地の競落人である原告はその代金の配当をうけた債権者に対し配当額の返還を請求できるところ、被告信用組合は右競売代金のうち金一、六九〇、六七二円、被告徳久産業は一六、七八一円の配当を受けたことは当事者間に争のないところであるから、原告は被告らに対し右各配当額の返還を請求できることとなる。

四、被告信用組合は原告が本件一三の土地を他に売却しているから、配当金の返還を請求できないと主張するが、民法五六八条、五六一条にもとづく権利はその物の競落人たる地位によつて生ずるものであるから、競落人がその不動産を他に売却したからといつて右法条による権利が消滅し行使できなくなるものではない。同被告の抗弁はそれ自体理由がない。

五、以上判断のとおり、被告信用組合に対し配当金一、六九〇、六七二円、被告徳久産業に対し配当金一六、七八一円、およびこれらに対し本件訴状送達の翌日たる同四五年六月二日以降右完済まで年五分の割合による遅延損害金の支払を求める原告の民法五六八条、五六一条にもとづく請求は全て理由があるからこれを認容し、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九三条一項を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 井関正裕)

別紙 図面<省略>

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